ワースブレイド外伝
〜ギルニダ侵略戦争〜
序章
時は、聖刻歴一〇二一年。所は、小さな大陸の物語である。
今、大陸の各小国は、内乱や侵略戦争を繰り広げ、不穏な情勢と
なっていた。
この時代の戦争とは、歩兵、騎馬兵、そして『繰兵』と呼ばれる
人型の巨人兵器を用いて行われるものであった。繰兵には主に、騎
士の乗り物である狩猟機、量産型の従兵機、練法師専用の呪繰兵の
三種があり、仮面に秘められた『聖刻石』の力で動くと考えられて
いたが、多くの謎は、その造り手たる聖刻工呪会によって極秘とさ
れていた。
また一方では、世間のしがらみを逃れ、己が道を進む者達もいた。
それが、術師である。術師には、大きく分けて練法使いと気功術者
が居り、前者は『聖刻石』を、後者は己の『気』を力の源とした。
そんな年の真夏。大陸南部の深い木立の森に、道無き道を突き進
む一人の男がいた。その男はふと歩みを止めると、腰に挿した剣を
抜き、その刃芯に『気』を注ぎ始めた。やがて刀芯が鈍く輝きだし
たかと思われた頃、突然繁みから片腕のちぎれたアンベム(外見は
熊で、伸縮自在の三本の爪を持つ肉食の野獣)が襲いかかってきた。
男は素早く左手にかわすと、剣を一気に右斜め下に振り降ろした。
『気』が弾けた。まさにそう感じられた瞬間、片腕のアンベムは叫
ぶ間の無く、真っ二つになって崩れ落ちた。これが、気功術の一つ
気闘法である。男は僧ではなく剣士であったが、気闘法だけは能力
が認められれば、誰でも身につけることが許されていた。
更にその男の剣の柄には、独特な彫刻が施されていた。それは、
一部の者のみぞ知る、王家の証であった。その男の名はアムル=マ
フォール、南方のギルニダ帝国マフォール王が一子であった。
ギルニダ帝国は、近年第二次侵略戦争を開始し、近隣諸国へと進
出していた。その手段は虐殺以外の何物でもなく、父王に痺れを切
らした王子は、教育係のゲビンと共に城を離れ、民衆に勇士を募っ
て、人民開放の義勇軍を造り出したのだ。
その指揮官たる彼が、何故このような森の中にいるのか?それは、
昨晩の宿営地を訪れた旅人に、この森に在る古代都市バルセニアの
廃墟に偉大なる操兵が眠っている、との噂を聞いたからであった。
アムルは剣を鞘に収めると、アンベムの出現した方に向かって歩
き始めた。しばらく行くと、木々の押し倒された場所に出た。そし
て、その中央にはアンベムの右腕と、垂直に立てられた剣があった。
おそらくは、アンベムと戦い命を落とした男の墓標であろう。アム
ルは、他の人間の存在と噂とを確信しつつ、右腕で額にたまった汗
を拭うと、再び繁みへと姿を消した。
ACT 1 出会い
かつては、聖刻工呪会に匹敵するほどの、操兵生産力を誇ってい
たその街も、数百年前の戦乱に巻き込まれて滅び、今では瓦礫の遺
物となって、近年に到っては訪れる者もない。しかしその地には、
真の操兵伝説があったとされ、多くの魔操兵(神掛かったまでの力
を持つ操兵)も生み出された。その都市の名をバルセニアと云う。
その古代都市の入り口に立つ一人の青年がいた。それは、外ならぬ
アムルであった。
アムルは、門を通った時から感じている気配に、気付かない振り
をしながら捜索を開始した。と、予想もしていなかった方向から矢
が向かってきた。彼はそれを紙一重で避けると、同時に逃げ始めた
気配を追った。走りながら街路を右に折れた彼に、更に薙刀の一撃
が待っていた。彼は曲がる為に左に振った右手で、反射的に腰の剣
を抜き、素早く払うと、そのまま切り返そうとした。が、その彼を
歓喜と共に迎えていたのは、まだうら若き少女であった。
「お見事!どう?私と組まない。」
「俺を殺そうとしておきながら、協力しろだと!」
「あら、突然こんな所に来た人を敵として攻撃するのは当然でしょ。
それより、気が変わったのよ。連れだって来ていた操手は、アン
ベムに殺されてしまったけど、貴方ならあの男以上だわ。」
「・・・俺は女とは組まん。足でまといだ。」
「でも貴方操兵が何処に在るの知らないんでしょう。」
確かに彼には、のんびりと操兵を捜すだけの時間は無かった。
「仕方が無いな。しかし今度こんな事をすれば許んぞ。」
アムルはその少女と共に、街の中央のすでに崩れ落ちた大きな建
物へとやってきた。そして数十分後、彼らはその瓦礫の下から発見
した、垂直に降下する装置に乗って、地下へと下っていた。その地
下には大きな扉が一つあるのみで、練法使いのみぞ知る聖刻文字に
よって、文章が書かれていた。
「力求めし者、仮面の意志に従いて、希望見い出すがよい。」
少女は、軽々とその文を読み上げると、扉のくぼみに右手を添え
た。すると、突如その扉が開き始めた。そして扉の向こうには、仮
面の置かれた台と、奥に更にもう一つの扉があった。
「これは、練法師の仮面。では、この奥にあるのは呪繰兵か!」
練法師の仮面は、多くの聖刻石がはめ込まれ、一粒の聖刻石のみ
を持つ練法使いを、名実共に練法師として認める証であった。更に
呪繰兵には、繰兵の仮面と対をなす仮面が必要であったのだ。
「それは、扉を開けてみれば分かるわ。」
少女は何のためらいも無く、奥の扉へと歩みをすすめた。
アムルはかすかな怒りを憶えながらも、力強くその扉を開いた。
ACT 2 風の将
闇の中で二つの影が動いた。
扉から漏れる薄明りで照らされたそこは直径十リート(一リート
は約四メートル)にも及ぶ巨大な大広間のようであった。
背の高い方は戦士であろうか?全身は鎧に包まれ、腰には剣が納
められていた。
もう一人は、おやっ・・・どうやら女性のようだ。
身軽なローブに身を包み、片手には杖が握られていた。
歳の頃は共に十七・八であろうか。
その二つの人影は・・・いやっもう一つ人影が存在した。
それは、もとからそこに存在していたのだ。明りで照らされたそ
の身体は二人の優に五倍はあり、巨大な台座に腰をすえていた。
「こっこれは、四天王の一つ『風の将』じゃないか?」
青年の呟きに少女が答える。
「そう、これはかつて南に聖魔将在りと言われ恐れられた南国の守
護神四天王の一つ『風』よ。」
この巨人俗に繰兵と呼ばれ、乗るものの力とならん。さらに四天
王と呼ばれる繰兵、狩猟機と呪繰兵の長所を兼ね備え、その巨大さ
は他の繰兵を遥かにしのぎ、その力は軍隊に匹敵すると言われた。
「確かにこれは二人乗りだが・・・」
「分かったらちょっと退いて頂けませんか。」
「ちょっと待て、まだっ!」
言うが早いか、少女は繰兵の背に備えつけられた梯子をするする
と登っていく。
−−− まったくなんて娘だ。 −−−
青年はまだ納得出来ないようであったが、それでもその少女の身
軽さに見入っていた。
少女が繰兵の中に入ってからどのくらいたったであろうか?当初
心配したようなことは起こらず、暗闇の中でただ時だけが過ぎてい
た。やがて、少女は繰兵から降りてくると青年に向かって言った。
「繰兵があなたを試そうとしています。御乗り下さい。」
「一体、君はこの繰兵の何なんだ。」
「乗ってみれば分かります。」
答える少女の顔にかすかに明りが照っていた。そして、その瞳は
赤く腫れ上がっているかのようだった。
−−− 一体何だって言うんだ。これだから女は分からん! −−−
そう思いながらも青年は、繰手溝に登る梯子を登っていく。この
繰手溝は密閉式だ。二つある座席の前側にまわり精神を統一すると、
青年は静かに席についた。
突然脳に鋭い痛みが走り、青年は耐えられず悲鳴をあげていた。
ACT 3 誓い
悲鳴が繰手溝の中で反響した。
−−− くっ、ここまで来て諦めてたまるか! −−−
青年は歯を食いしばった。その額から汗が溢れ出す。
それはわずか数十秒というごく短い時間であったが、受けるもの
には無限にも思えるような時間を、青年は歯を食いしばり耐えた。
やがてそれが治まった時、彼の脳に直接語り掛けるものがあった。
(大した精神力だ。この繰兵の力をまとも受けて正常でいられると
は・・・さて、まずそなたの名を聞かせて貰えまいか?うぬっ、そっ
その腰に挿している剣はまっまさか!)
「なぜこの剣を知って居られるのだ?そう、僕の名前は・・・」
謎の意志との会話は十数分に渡って続いた。やがてそれが終わる
と青年は席を立ってこう言った。
「全ての事情は分かりました。そして僕が今何をすべきなのかも。」
意志の答えは無かった。また深い眠りへと戻ったのであろう。
青年は繰手溝を後にして、梯子へと回った。梯子を降りる彼に不
意に下から声が掛かった。
「どうだった?その様子だと大丈夫だったようね!」
青年はそれには答えず、床に降り立つと少女の方に歩み寄った。
「どうしたの、まだ具合いが悪いの?あっそうだ、まだ名前を聞い
て無かったわね。私の名はリーナ、あなたは?」
「そうだな、まず名を明かさなければならないだろう。僕の名はア
ムル=マフォール、マフォール王の一子にして、今は親に仇成す
南国ギルニダ解放軍の指揮官だ。」
「えっ、ではあなたがあの民衆の為に命を掛けて居られるというア
ムル王子だったのですか?こっこれはそのような御方とは露知ら
ずたいへんなご無礼を・・・」
かなり動揺しているリーナに向かってアムルは優しく語り掛けた。
「謝る必要はないよ。隠していたのは僕なのだから、それよりもリ
ーナて言ったっけ・・・君のお母さんの事だけど、率直に言うと
彼女は今も生きている。」
「母を御存じなのですか、それで母は今っ!」
「ギルニダ城の牢屋に閉じ込められている。ただ、彼女は自らの心
の殻に閉じ込もって他人を拒絶しているのです。」
「そうですか、それでアムル王子はあの「「「。」
「あなたの父上の意志に添いたいと思っている。激しい戦いになる
が、僕達について来てくれるかい?」
「ええっ。喜んで。」
そう言うと、笑顔を浮かべながら二人は固く握手を交わした。
ACT 4 決戦前夜
空には月が昇っていた。明日は満月だろうか。
アムルは、汗ばんだ身体を冷やそうとテントの外に出た。
昼間帰って来たときは無断で出かけたものだから、配下の者を治
めるのに苦労したのだ。おまけに少女を独り同乗してたものだから
ただ事で済む訳がなかった。
「まあ、留守中何事もなくて良かった。」
そう呟くと、川のほとりに向かって歩いた。
涼しい風が肌に心地よかった。月夜をのんびりと眺めていると、
ともすれば明日が決戦の日であることが夢のように思われてくる。
−−−どうしてこのような戦いを続けねばならないのだろう。この
自然の中で我々は知恵を与えられながらも、なんと愚かな事
をしているのだろう。−−−
漠然とそのようなことを考えてしまう。
岸辺の土手に腰を掛けていると、後ろで足音がした。
思わず振り返ると、かの少女が立っていた。
「リーナどうしてここに?夜は危険だからキャンプを離れないよう
に言っただろう。」
「ごめんなさい・・・。」
リーナは、ちっと気まずそうにそう答えた。
「いっいや、別に怒っている訳じゃないんだ。ただ、深夜の一人歩
きは危険だから、それより眠れないかい?」
「ええ、やっぱり落ち着かなくて。」
「無理もない、女性には荷が重過ぎる。僕とて君が風門の練法術師
でなかったら、絶対に連れて行かないところだよ。」
風で木々がうなっていた。
「それにしても、綺麗だな。」
「ええ、こんなに美しい月夜は久しぶりです。外に出て良かった。」
「えっ?いやそうじゃなくて・・・いや何でもない。」
アルムは赤面して答えた。夜であったことを半ば感謝しながら。
リーナは、嬉しそうに微笑んでいた。
「もうそろそろ帰ろう。明日にひびくから。」
「はい。アムル王子、どうも今日は有難うございました。なんと御
礼いったら良いか「「「」
「危ない伏せて!」
叫ぶと同時に叢から、矢が飛んで来た。鈍い音がした。アムルは
構わずその方向に向かって走った。それにリーナが追い付く。
「すでに自害している。味方に紛れていたんだ。」
「アムル王子、その腕怪我してるじゃないですか!」
「「「「この事は誰にも言うな。」
ACT 5 出陣
群衆の中から、歓声が上がった。
群衆には、男女が入り乱れて、その中の男性のほとんど全てが鎧
を着込み、武器を身に付けていた。
「「「「以上、最後の奮張りで頑張って欲しい。」
マントを羽織って演説していたのは、他ならぬアムルであった。
その中で、独り心配そうに聴いている者がいた。リーナである。
彼女は彼が、この暑い時期にわざわざマントを羽織っているのが、
隊長としての立場を明確にする為でないことを知っていた。
−−−あれほど止めたのに何故−−−
もちろん解らない無い訳ではなかった。昨夜、アムルはリーナを
説得する為に、自分の生い立ちを切々と語ったのだ。しかし、彼女
は心配で溜らなかった。
出陣の準備が始まった。彼らも繰兵に乗り込まねばならなかった。
繰兵『風の将』の周りには群衆が出来ていた。今一度彼の雄姿を
目に焼き付けようというのだ。
彼もそれに答え、梯子を昇りきる手前で振り返り手を振った。
先に登ったリーナはもう気が気でなかった。癖ではあろうが、彼
の身体を支えているのは怪我をしている右腕の方なのだ。
改めて登りきったアムルは痛みに顔をしかめていた。
「リーナの手当は大したものだ。この程度の痛みで済むとは思わな
かった。」
「なに強がり言ってるの!顔中汗だらけじゃ無い。」
そう言うと、リーナは救急箱を取り出した。
「いつの間にそんな物を。」
「夜が明ける前に。さっ、早く腕を出して。全く無茶するんだから。」
アムルは苦笑しながら右腕を出した。
傷が開いていた。昨夜の矢はかすっただけだったのだが、それが
かえっていけなかった。手首から肘にかけて深さ一センチもの傷を
負って居たのである。
リーナは、その見るに耐えない傷を正視しながら手当をして行く。
「はい終わりましたよ。」
リーナは最後に包帯をギュと閉めた。
「いっ、痛い!」
「あら、そうですか。まったく、心配ばかりさせて。」
−−−よく気の付く娘だ。おまけに気が強いと来ている。−−−
「何かおしゃいました?」
「いや何も。手間を掛けて済まないなと。」
出陣の笛が鳴り響いた。
こうして、一抹の不安を残しながらも、一行は出撃したのだった。
ACT 6 策略
激戦が続いていた。
城壁の半径が五キロに及ぶと言われるギルニダ城の北門の前で、
戦いは解放軍に対し有利に展開していた。
アムル率いる主力部隊は、本来城壁の南側から攻める予定だった
が、直前になって北側に変更した。
それというのも、今朝になって副官のゲビンから、彼の部下に不
審な動きをする者が二名居たこと。そして、一人が野外で死に、一
人が姿をくらましたとの報告を受けていたからだ。
つまり、スパイの報告によって、ギルニダ軍が南に主力を置くと
考え、これを逆手にとったということである。そしてその予想は見
事に的中し、今や城門を破る手前まで侵攻していた。
「急げ、南門の敵が戻る前に何としても中に入るんだ!」
−−−ゲビン達は、無事だろうか−−−
アムルは南側で出来る限りの時間を稼ぐために、副官ゲビン率い
る高速機動部隊に、任務を託したのだ。
「腕は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。それより、ほらっ、城門が崩れるぞ!」
彼らの目の前で、城門が崩れていった。
だが、全軍が城門に流れ込んだとき、戦いは勝算から絶望へと変
わった。
城門の向こうには、ギルニダ軍の繰兵が十数機、待ち伏せをして
いたのだ。
そしてその中央には、他の繰兵のふた周り以上の大きさを持つ真
紅の繰兵の姿があった。
『風の将』と並ぶ四天王の一つ『炎の将』であった。
−−−しまった、もう回り込まれたのか。しかし早すぎる。ゲビン
達はどうなったんだ。−−−
そう考えている内にも、敵の繰兵は門の近くにいる兵士を手あた
り次第に虐殺しにしていく。
「全軍後退。林まで下がれ!」
「隊長、あっあれを。」
部下の一人が声を掛けた。その指し示す先を目で追う。
前方の『炎の将』の手に握られているもの。それは見るも無惨な
副官ゲビンの亡骸だった。
「ふんっ。お前の教育係をゲビンに任せたのがそもそもの間違いだ
ったようだ。まあ、こ奴もわしが息の根を止めてやったことだし、
お前ももうそろそろ観念したらどうだ?」
「貴様っ、昔の友までも己の手に掛けるとは!」
「ふっ、友など当の昔に捨てたわ!」
まさに悪鬼のごときマフォール王は、続けてこう言った。
「皆の者、剣を納めい!」
ACT 7 一騎打ち
「何のつもりだ!」
「一騎打ちをしてやろうと言うのよ。お前の最後を見れば、後で死
ぬ者も諦めが付くというもの。それとも逃げるかな?」
「受けてたつ!」
「偉く強気だな。風の将を手に入れただけで互角だとでも思ってい
るのか。『風』は『炎』従属するもの、それを忘れた訳ではある
まい。」
「しかし、あなたには今、練法師が同乗していない筈。」
「練法師なら乗っているぞ。ニアナという名前のなっ。そう、お前
の後ろに座っているリーナとか言う小娘の母親だよ。まあ、火の
門ではないが、昨日今日仮面を手に入れた新米とは訳が違う。」
「母がそこに居るのですか。じゃ、意識を取り戻したんですね。」
今まで黙って聴いて居たリーナが突然叫んだ。
「甘いな、ニアナは今やただの操り人形よ。まあ、これだけの事を
するのにもずいぶんと時間が掛かったがな。」
「貴様という奴はどこまで腐っているんだ。許さんっ」
言うが早いか、『風』は突撃していた。
『炎』は軽々とその攻撃を避けると、『風』の腹を殴り付けた。
「まだまだ未熟だな。」
そう言いながら、ゆっくりと剣を抜く。
戦いは、遥かに不利だった。ニアナの激しい攻撃呪文に対して、
リーナは防御呪文を唱えるのがやっとであり、それで全てが防げて
いるという訳でもなかった。おまけに、アムルの傷がまたしても開
き、操縦桿を握れない状態まで陥っていた。
「くっ、ここまでか。済まないリーナ。君までこんな目に合わせて
しまって。許してくれ・・・」
「アムル・・・」
剣が目前に迫っていた。覚悟を決めたその時であった。
突然『風』が凄まじい光を発し、そのエネルギーが渦を巻いた。
そして、その場にいた全てのものに語り掛ける声があった。
(今から、十八年前の事だ)
「そっその声は、まさか、ライクかっ!」
「父さんっ」
声は語り続ける。
(ギルニダが侵略を始めた為に、四天王の意志がふた手に分かれた。
即ち、民衆の為を善とする『大地』と『水』、国の為を善とする
『風』と『炎』だ。そして、『大地』と『水』が滅んだ。そう、
正しき故に情けを持ち、王を討てなかったのだ。そして、『風』
もそれを悟った。)
ACT 8 そして・・・
(その中で、最後まで悩んだ一機、『炎』は混乱の最中に呪いの呪
文を受け、それを増幅してしまい、意志を失った。そして、乗っ
て居たものも只では済まなかった。練法師は発狂し、王は愛を失
った・・・そしてあなたは私から妻を奪った。私の肉体は朽ち果
てたが、それでも私はこれに意志をとどめ、どうするべきなのか
を考えて来た。そして気付いた、その繰兵自体が全ての元凶なの
だと。アムル王子。今こそ力を貸しましょう。)
「むう。かっ身体が動かん。」
−−−そうか!−−−
次の瞬間『風』は、『炎』を斬った。
仮面だけが真っ二つに割れ、弾け飛んだ。
その直後、『炎』は身体中から赤黒い煙を吐き出しはじめた。
そして、煙が引いたその後には、『風』と同じ位銀色に輝く鎧が
残っていた。
(良かった。私の考えた通りだったようだ。ニアナと話す時間が無
いのは辛いが、これも『風』との約束だ。今から、『風』を封印
せねばならない。さらばだリーナ幸せにな。)
リーナは泣きながら叫んでいた。
「父さーんっ・・・」
何かがひび割れる音がした。
仮面が、割れたのである。
誰もが戦う意志を失っていた。全ての人が、ライクの言葉の真相
を確かめざる負えなかったのだ。
意識を取り戻した王が言う。
「「「「私はなんと愚かなことをしていたのだ。全ての友を失い、
全ての人を傷つた。・・・皆の前で、死んでこの罪を詫びよう。」
「お待ち下さい。」
「アムル・・・」
「父上のその気持ちだけで十分です。これから大切なことは、この
国を本当に平和な国に立て直すことです。そして、それこそが
罪滅ぼしとなるのです。」
「そうか、そうだな、犯した罪から死して逃げるわけにはいかぬな。
よし、私はここに宣言する。この国を、緑のある平和な国に立て
直すことを。」
ややあって、解放軍から沸き起こった歓声は、やがて両軍に飲み
込んでいった。
「アムルよ。どうしても行くのか?」
「はい、リーナの母の意識が戻る方法を探して旅をして参ります。」
そう答えると、アムルとリーナの二人は笑顔で旅だっていった。
END