魂の終着駅   

一,現代

時代は流れて、次の若者たちが駅前にあふれるようになる。
 私はその中を歩きながら、想いは遠い昔を見ていた。
  友と共に山に登り、海では泳ぎ、川では魚をつった。
   風を肌で感じ、草花を愛で、動物とたわむれた。
    もはや戻らぬ日々と自然...
現代という激流にあがらい打ちのめされた魂
 凍てついた心を溶かすものは現代には何もなかった。
  文明という、根拠のない正義の拡大を
   冷ややかな目で見つめて来た私の、
    背負うべき業であろうか。
何が正しく、何が悪いのか。
 また、それを決する権利を誰が有しているのか?
  何人も答えを与えてはくれない。
されど、人々は今の生活に満足しながら日々を過ごしている__
 と、私にはそう見える。
  本当は皆同じ想いを抱いているのかもしれない。
   が、それを知る能力は私にはなかった。
真偽の魂の葛藤の中で、唯一私の信じた女性の裏切り、
 それが決定打ではあった。
  けれども、その女性を恨んではならぬと想うた。
   信じた私が愚かで弱かったのだ。
    が、信じた自分を後悔してはいない。
最適な判断とは、客観的に見てのみ与えられる。
 だが、それでは己が己では無くなってしまう。
理性で自分を覆い隠せる者がいる。
 本能のままに自分をさらけ出せる者がいる。
  私は単に、後者を重んじただけなのだ。
だが、組織というものは前者しか認めようとしはない。
 十人十色という言葉を知らぬ人は居ないのに、
  その意味を知らぬ人は居ないのに
   それを了解している人が居ないのであろうか。
    それとも...
「そうだ!」と、私は一つの確信を抱いた。
 「この現代は矛盾に満ちているのだ」と。
  そして、それは、
   「人と人が接するから生じるのだ」と。
気がつくと、駅の外は、夕日で真っ赤に染まっていた。
 私は、いつもと異なる切符を買うと、
  いそいそと列車に乗り込んだ。
そう、人から逃れるための旅路を、
 独り当てもなくさまよう為に。